翻訳プロジェクト、第二ステージ突入

ついにフランス語でも翻訳作業が始動したようです。
こうやって一つの本からウェブ上でいくつものプロジェクトが派生していく凄み。これを身をもって体験できていること、そしてそのスピード感に身をさらしていること、いままで「こちら側」の世界でしか生きてこなかった僕には新しい発見の連続でわくわくがとまりません。

ところでフランス語訳プロジェクトとそれに先立ってにスタートした英語訳プロジェクト、両者の理念は合致しています。
それは、

むろん、何が起きるかはわかりませんが、将棋のグローバル普及という文脈で何か面白いことが起きればと思い、本書についてはこういう新しい試みに挑戦してみることにしました。

この実験の一翼を担いたいということです。

ただこの両者、実験に対するアプローチは多少異なります。
フランス語訳の発起人id:yoshihisa_yamadaさんから頂いたメールに、

フランス語プロジェクトはあまり人もいないので、中々一気呵成に進めることが難しいという制約もありますね。

とありました。決定的な違いは英語を繰れる人の絶対数がそもそもフランス語のそれと比べて圧倒的に多いというところにあります。フランス語チームの場合はオープンにやるより他はない。他方、英語チームの方は幸運なことに半日のうちに十人集まり、オープンのままにすることもできるし、一旦クローズしてある程度しっかりとした翻訳土台を作ったあとで再びオープンすることもできる、そんな贅沢な選択肢が与えられたのである。結局はご存じの通り一旦クローズするという運びになったのだが、これが結果としてフランス語チームとは違う方策を採ることになったということで、今回の試みの実験的性格を考えると間違った選択ではなかったように思う。

もともとクローズすることに至ったことの背景には、

  1. スピード
  2. クオリティー

の主に二つの要素があった。

第一のスピードについて、

人数が多くなると「スピード」の遅さに直結します。専門分野の違う優秀な人たちが協力して作り上げることで確かにクオリティは高くなるのですが、開発時の意見のぶつかり合いによるストレスは格段に増え、あるいは専門による分業を明確にして衝突を避けようとするとその隙間でとんでもない見落としがあったりして、どうしてもスピードが落ちます。それぞれ個人としていかに優秀であっても、その能力が存分に活かせなくなってしまうのです。

江島健太郎さんがインフォテリアUSAの事業失敗の反省として挙げたのが「人数の多さ」でした。人数が多くなるとスピードが落ちる。江島さんの場合人数が多いといってもたったの4人だった。それでもうまくいかなかった。今回の英語チームにはすでに10人も集まってくれたのだが、これ以上増えると組織として動けなくなってしまうのではないかという懸念が、江島さんのこのエントリーを読む前から既に僕の中で生まれていた。

第二のクオリティーについて、
メンバーに手を挙げた者は、暫定英訳をオープンできるまでに漕ぎ着ける責務を負う。みなさんどうぞ好き勝手に英訳・編集していいですよと丸投げするのと比べて、メンバーがコミットメントをした以上、良質な訳が仕上がる可能性が高いと言っていいだろう。ただ、今回の試みの主眼はオープンソースのすごさ・群衆の叡智の偉大さを再認識することにあったのではなかったか。この葛藤がいまでもある。ただ、

少数名で予め叩き台を一通り用意しておくってのはかなり良いね。大抵のWikiは始めから開放して拡散して自然消滅してるし。

id:Yuichirouさんがブックマークに書き残したように、ある程度のクローズ性は仕方がないのかなと思わなくもない。オープンかクローズ、どっちがいいのか正直答えは自分でも定まっていないが、今回はスピード重視でいこうかなと思い、答えが出ないままとりあえずはクローズで妥協することにした。


英訳の暫定版一般公開まではクローズな空間で作業をすることになる。その埋め合わせにといってはなんだが、これからもグループ内での進歩の状況をこのブログで報告できたらなと思います。