限界とそして希望

数日前に"Party in Preparation"さんよりトラックバックをいただきました。

最初に公開する本や訳文が良ければ良いほど後の修正も楽であり、なによりも出発点のレベルが高ければ到達点もまた高くなる。

このエントリー、「こんな短期間で仕上げちゃっては翻訳の質が不安だ」という声が聞こえてくる中、それらの声の結集としてしっかり重く受け止めさせていただきました。
ただ、
まだこうして当プロジェクトに対する関心が高いうちに、そして期待感を表明してくれている人がいるうちに、この公開直前というタイミングで敢えて言わせてていただきます。

僕たちの訳は完璧からは程遠い、さらに言えばみなさんが読んでみて質が低いとさえ思うかもしれない。

今の段階ではそんなレベルの翻訳です。残念ながら。自覚してるんだったらもっと時間かけて質上げてから公開しろよって思われるかもしれません。それでも僕たちは数日中に訳を公開します。なぜか?

まず分かっていただきたいのが、メンバーのほとんどが海外で教育を受けたことがない人であるということ。また、メイン翻訳者の平均年齢は21歳くらいであり、これまでに翻訳の経験が皆無なこと。それでも彼らは、少しでもこのプロジェクトの役に立ちたいと思い、手を挙げてくれたのです。そして、自分の英語力のなさに愕然としながらもしっかりと与えられた章を訳し切りました。それでも、改めて、僕たちがどんなに頑張ってところで、英語力には「限界」があるのです。ここまで読んで、よくもぬけぬけとそんなことが言えるなと思った人がいるかもしれません。そんな声にはこう答えさせていただきます。
そもそも梅田さんだって僕たちには翻訳の質なんて求めていない、と。
もし初めから完璧な訳を求めていたのなら、どうぞご自由に訳してくださいなどとはブログに書かなかったでしょう。だって、そんなのプロに頼んじゃえば質の高い訳が保証されるんだから。

話を元に戻して、なぜそんなレベルで公開するのかについて、まずはid:takuya514のプロジェクト内での発言を読んでください。

でもよく考えると、第一段階は特にOpen Sourceと言えるものでもなく、時間をかけてしっかり取り組めばできてしまうという、いわば想定可能領域だったと思います(もちろん、スピードの面においては、日本語圏ウェブではあまり見られなかったことかもしれませんが、英語圏ウェブでは、例えば、アメリカの大学生ボランティア2人が、オバマ大統領の透明性ある政治に共感して「http://www.stimuluswatch.org/」という大規模サイトを7週間で作ったり、そういった例が枚挙に暇がなくあります)。
このプロジェクトが本当にグローバルに大きなインパクトを持ち得るものになるためには、Wisdom of Crowdsの力を借りる第二段階こそが重要で、例えばこの翻訳を読んでくれたアメリカ人将棋ファンが、「ここは棋譜を見るだけだとわかりにくいから、オレが実際に解説を口頭で説明したものを録画して、Youtubeにアップするから、翻訳にリンクをつけておいてよ」とか、羽生さんに興味を持ってくれた人がWikipedia.comの羽生さんの項目を大幅加筆してくれたりだとか、もっと強いコンピューター将棋を作ってやろうとするインド人が出てきたりとか、もっともっと今の段階では想定不可能なことが次から次へと起こってきてこそ、本当の成功と言えるのではないかと思います。
そのために大事なことである、(1)情熱を持ち続けること、(2)こういったことが起こりやすいようなプラットフォームを用意することなどが、これからの自分たちにできることだと思います(......)。

これこそが僕たちが抱いている思いであるのですが、これをさらに要約すればこんなフレーズになると思います。

"WE WANT TO BRIGHTEN THE NOW GLOOMY JAPANESE WEB"

そうです。僕たちは日本のウェブを明るくしたいんです。揚げ足取りのネガティブなウェブから高め合いのポジティブなウェブへ。ここまで当プロジェクトがやってきたのは、ポジティブな風を少しでも吹き込めるようにするための土台作りです。もう一回言います、「土台作り」です。所詮「土台」です。でも土台がなければ建物は立たない。だから僕たちはゴールデンウィークを丸々費やして急いで土台を作った。高め合いのポジティブなウェブ(Wisdom of Crowds)、という「建物」を立てるために。プロジェクトメンバーだけでは数が少なすぎで、到底「建物」は立てられない。だからせめてその土台となる公開用の仮の翻訳を急いで仕上げたかった。

ここまでだらだらと書いてきた、急いで公開する理由、まとめるとこうです。

「十数名のメンバーではできることに限界がある。でも、1億2千万人のメンバーができることには希望がある」

日本はもう立ち直れないと思う。

なんて言われて悔しいじゃないですか。僕はまだ立ち直れないなんて信じたくない。Wisdom of Crowdsの風が吹き荒れて日本を救う、そんな日が来ることを信じたい。